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            おむすびを持って 

                               (登った山を紹介します)

                          竹山

   むかしむかし、南の島から大きな鳥が飛んできた。
   海沿いにそびえ立つ山の頂上に降り立った鳥は、そこに一粒の種を落とした。
   それは真っ赤な実のなる、蘇鉄という植物だった。
   山の頂上に根を生やした蘇鉄は、何年もかけて子供たちを増やしていった。
   この山のあちこちに、子供たちは根付いていった。
   そのうち、人間が蘇鉄の存在を知り、引っこ抜いて、あちこちに植えるようになった。
   こうして一個の種から鹿児島の地に、いっぱい蘇鉄がひろがっていったのである・・

   ・・そんな物語を想像してしまう今回の山登りは、山川町にある竹山だ。
   とても素晴らしい山である。
   標高はわずか202mだが、こんなに感動をもたらしてくれるとは。
   ぼちぼちと紹介していく。

 切り立った崖、鋭角にそそり立つ峰。
 どうしても登りたいと思ったのは2年前である。
 それまでは遠くに眺めるだけで、どんな山かもあまり知らなかった。
 蘇鉄の自生地の北限であることも、最近知った。今回も下調べなしで挑戦だ。
 入り口の鳥居近くの駐車場に車を停めた。
 坂道を地元の人らしきおじさんが下りてきた。
 「頂上まで登れますか」と聞くと、「登れるよ」との答え。
 まさかあんな怖い目に遭うとは思わず、あんなに時間がかかるとも思わず、リュックを背負った。

 まずは赤い鳥居をくぐって、登り始める。
 鳥居の横の看板に、蘇鉄について書いてある。
 国指定特別天然記念物だそうだ。
 昭和29年に指定されている。
 まったく何にも知らずに来たので驚いた。
 蘇鉄が生えていることなど、遠くからはまったく分からなかった。
 登山道に入る前に、山頂を撮った。
 実は簡単に登れると思って来たのである。
 今、右の画像を見ても、怖さが甦ってくる。

 しばらく写真左の坂を登っていくと、神社がある。
 この神社は「たけやまじんじゃ」なのだが、「武山神社」とある。
 「竹山」ではない。
 どうやら昔の戦いに、その名前の由来があるらしい。
 歴史には弱いので、パス。
 やたらと鳥居がある。
 ここでもう三つ目だ。
 その上の分岐点に朽ちた鉄製の鳥居もあった。
 そしてその先の、少し怖い高い場所にも、鳥居がふたつある。

 武山神社を過ぎてしばらく行くと、分かれ道に出る。
 そこを右に折れるとすぐに景色が広がる。
 写真左は見慣れた方もあろう。
 指宿菜の花マラソンのコースである。
 山川に向かう道だ。
 そこをもう少し登ると、写真右の景色が見えてくる。
 この景色を見られるだけでも価値がある。
 しばらくみとれていた。
 が、今日はこれで満足してはいけない。

 こんなに蘇鉄が生えているとは思いもしなかった。
 蘇鉄自生地の北限にふさわしい群生である。
 写真左の右側に、細く白い棒が見えるだろうか。
 そこに神社がある。
 もうすぐだなと歩を進めると、なんと坂道が崩壊している。
 この岩盤は、あまりしっかりとしたものではないのがわかる。
 こういう岩はぼろぼろと崩れていくので怖い。
 不安がよぎる。
 とにかく、神社まではいけるだろう。

 神社に辿り着いた。
 神社の下の階段は、途中から崩れ落ちている。
 先ほどの崩壊がそうである。
 危ないのでロープが張ってあった。
 航海の安全と大漁を祈願する神社である。
 黒塗りと日本国旗が、他の事を想像させる。
 ここに祀ってあるということは、誰でもここまでは来られるということなのだろう。
 それにしては高所恐怖症の人は足がすくむ場所だ。
 いよいよここから頂上を目指すのだが、5分もしないうちに進めなくなってしまった。

 写真左は神社の上から撮ったもの。
 ここまでは楽に登れた。
 しかしだんだん険しくなっていく。
 写真右の崖が現れた。
 ここを登らなければ頂上にいけないと思い込んでいたので、頑張ってみた。
 しかし少し登ったところで、体が恐怖を覚えた。
 私には無理だ。
 本当に怖い。
 今回だけは降参しよう。

 竹山はツインピークスである。
 ふたつの頂(いただき)を持つ。
 折角ここまで来たのだから、もうひとつの峰には登ろう。
 簡単に行けることは、想像がついた。
 ただし、木が生い茂っているので、景色はまったく見られないかもしれないが。
 それでも行きたいと思った。
 写真左がその峰だ。
 そして写真右。
 記念に一枚、足がすくんだ場所で自分の写真を撮った。

 ふと下を見て、近くに小高い場所があることに気づいた。
 とりあえず行ってみよう。
 ここもなかなかいい景色である。
 サッカーの練習をしている人たちが見える。
 露天風呂も見える。
 ここは男湯も女湯も、この場所からばっちり見えるではないか。
 女性の裸にはまったく興味がないので撮らなかった。
 ・・なわけはない。後から拡大してみたら、しっかり写っているではないか。
 あよっこら、ちょっしもた。もちっと撮れば・・

 分かれ道まで戻り、そこからまた登り始める。
 人が通って踏みしめた道というものは見当たらない。
 ずっと藪の中を行く。
 ところどころに蘇鉄が生えている。
 かなりの大きさのものから、やっと芽が出たものまで。
 全体が、蘇鉄の山なのである。
 かなりの時間を費やし、やっと頂上。
 思いがけずそこには、とても登りやすい1本の木が生えていた。
 登ってみると、素晴らしい景色が広がっていた。

 ここに木造りの展望台を建ててもいいのではないか。
 それくらいに素晴らしい景色である。
 先ほどどこまで登ったのか、じっくりと眺めてみた。
 神社があって、その右を登っていって、そこから左上へ急な崖を上って・・
 ああ、やはり無理だな、あそこから上へ向かうのは。
 無理して登らなかったことに安堵した。
 あれ以上登れば、もうどうにも身動きが取れなくなる。
 あまりの恐怖に、小便を漏らしていたかもしれない。
 そう思いながら眺めていて、ひらめいた。

 先に述べた露天風呂が、ここからもよく見える。
 サッカーの練習をしている選手の背番号も、しっかり写っていた。
 ちょっとここは一服して、露天風呂の様子を見て頂こう。
 男湯には結構人がいるが、女湯には二人だけ。
 海の近くの露天風呂かあ。
 今度は入浴目的で来てみようかな。
 さて、これからどうするか。
 南側は絶壁である。
 北西側の斜面は、ひょっとしたら登れるかもしれない。

 下りながら、あちこちに蘇鉄が生えているのを、不思議な感覚で見た。
 なぜ小さな蘇鉄がここで育っているのだろう。
 どういうルートで、種が運ばれるのだろう。
 大きな蘇鉄も枯れずに頑張っている。
 ここは観光地として、正しく開かれるべきだと思う。頑張れ、山川町。
 インターネットで見ても、私のレポート以上のものは見つからない。
 こんな素晴らしい場所が、知られていないのだ。
 写真右は、突然ではあるが、北西側の登り口。
 あ、私個人の・・である。

 入り口だけ藪になっているが、その先は写真左のような林が続く。
 ただし写真ではとても分かりづらいが、斜度60度である。
 ここからまず右へ向かう。
 絶壁の西の端から登れないだろうか。
 なんとかそこへは辿り着いた。
 ところが上を見てみると、とても登っていけそうにない。
 おまけに絶壁へ出てしまう。
 頂上まであと少しなのだが、断念。残念。
 そこから下を撮ったのが、写真右。

 写真左は、西側から見た竹山。
 どこかに上へのルートがあると思ったのだが。
 もしも生えているのが蘇鉄ではなく雑木だったら、だいぶ事情は違っていたはずだ。
 蘇鉄は掴む事ができない。
 登っていくことができないのだ。
 あきらめて、ここから東へ向かう。
 登れない崖がどこまで続くか分からないが、どこかになだらかなところがあるはずだ。
 しかし、その願いはとうとう叶わなかった。
 急な林の中を東へとさまよった。

 途中で紺色の上着を発見。
 ひょっとして白骨死体が転がっているのではないかとワクワク。もとい、ドキドキ。
 こんなところをうろうろする物好きなやつもいるもんだと思う。
 もしもし、おたくもそうですよ。
 東へ東へと向かうが、登れそうな場所はない。
 おっ、ここは・・・
 やっと登れる場所があった。
 喜びながら登ると、そこは最初に来た神社への道の途中だった。
 とにかく一度休憩しよう。持ってきたおむすびを頬張る。

 あ〜あ、駄目だったなあ。
 今度ばかりは諦めなければならないなあ。
 さあ、帰ろう。真上を見ると、岩の上に蘇鉄が茂っている。写真左。
 残念ではあったが、やるだけのことはやった。
 そして下り始めたのだが、何故だか足が止まった。
 本当に何故だか分からない。
 ここを左に行ってみよう。
 自然と頂上への道が浮かび上がった。
 本当に不思議なものである。

 ずるっと滑れば、さきほどさまよった崖の下へまっさかさまである。
 しかし、落ちる気はしなかった。
 頂上しか頭にない。
 必死になって、上を目指した。
 写真も撮っていないのは、余裕がなかったのか、一生懸命だったのか。
 足元はズルズル滑るが、それでも上へ上へ。
 突然目の前に、鳥居が現れた。
 小さな鳥居である。
 そしてその向こうに、石でできた塔があった。

 この一枚の写真を、じっくり見て頂きたい。
 私はこれを撮る為に、ここに来たのかもしれない。
 冒頭をもう一度読んで頂ければ分かる。
 この蘇鉄を見て、今日味わった恐怖や難儀が、すべて報われた気がした。
 生まれて初めて見る老練な蘇鉄である。
 畏敬の念が沸いてくる。
 来てよかった。

 頂上の鳥居のそばに、この蘇鉄はある。
 一部は枯れているが、まだまだ元気に生えている部分も多い。
 まるで恐竜のうろこのようだ。(恐竜にうろこはないが)
 研究者にこの蘇鉄の年齢を是非、出してもらいたい。
 ここまで登ってくるのは大変だろうけれど。
 大龍小学校の校庭に歴史のある蘇鉄が植えてあるが、それよりもずっと古い。
 驚くような年齢が出されるのではないだろうか。
 さあ、そろそろ下山の時間だ。
 その前に南側の絶壁から、写真を撮らなくては。

 絶壁の淵まで行ってみる。
 足がすくむ。
 サッカーの練習をする選手が、真下に見える。
 露天風呂は男湯しか入っていない。
 う〜ん、残念。
 何しに来たのやら。
 ここからでは、崖の怖さを撮ることは難しい。

 写真左がその崖を真上から撮ったところ。
 実際にそこにいるととても怖いのだが、画像では伝わらない。
 ここから見える開聞岳、長崎鼻、浜児ヶ水の海岸はとてもいい。

 来た道を辿り、帰路に着いた。
 素晴らしい一日だった。
 ひょっとしたら、また来たくなるかもしれない。
 次回は簡単に頂上までいける。
 天気のいい日に、おむすびを持って。
 今度は頂上で食べられる。

               おわり

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