プノンペン → コンポントム (約180km)
第2日め(11月23日)
▽ ツーリング・スタート
朝6時,やっと外が白んできたので,早朝のプノンペンを見てみようと思い,カメラ片手に一人で出かけた。
ホテルは繁華街に比較的近くだったらしく,既に人々が活動を始めている。市場らしき一角ではテントの下で忙しく準備が始まっており,道ばたのバナナ売りはたくさん
のバナナを並べ営業を始めていた。街角の食堂ではカンボジア人が歩道にまで椅子を並べ朝食を取っている。いかにも古いビルや真新しいビル,ブラブラ歩いていると
バイクタクシーや三輪タクシーから何度か声を掛けられた。
2,30年前大量殺戮のあった悲劇の町であるが,カンボジア王国として再建の途中にある今,
人々は活気に溢れている。
ホテルの簡単な朝食を済ませ,ツーリングの身支度をして(このとき膝プロテクターを一旦着けたものの,
必要なかろうと外してしまった)待っていると,昨夜の若い女性ガイドが来た。大学で日本語を専攻したが,実地の経験は浅いそうで,流暢な日本語というわけでは
なかった。それでも,言葉が通じるのはこの女性ガイドのみ。現地スタッフは,この女性とサポートカーのドライバーとバイクで先導してくれるメカを担当する
青年の3人。我々のバイクは既に外に届いていた。
3台ともHONDA XL250 ディグリー,一見するとかなり使い込んだ車体だ。私は現在通勤用にCB400SS
に乗っているので,兄弟車のようなもの,取り回しに問題はない。
試乗してみてくれと促され,3人ともいきなりバイクが増え始めた右側通行の市内の大通りに踏み出す
ことになった。街角のワンブロックを一回り,途中,人混みで混雑するところもあったが,3人それぞれ,こういうツアーに参加するぐらいの腕なので難なく戻ってきた。
出発の前に先ずガソリンスタンドまで行って給油する,先頭はメカ兼の先導バイク,その次にSさん,
M氏,最後尾に私の順,と指示があって,
道路右端に縦列に4台並べ,エンジン始動。先導バイクに続いて流れに乗り入れる。
カンボジア・ツーリングのスタート。
この頃には市の中心部でもあるらしいこの辺りはバイクがどんどん増えてきた。
方向は分からないが,我々はさらに市の中心部に向かっているらしく,朝8時過ぎだというのに,
プノンペンのバイクが全て集まってきたかのように我々の周りはバイクで詰まってきた。数は少ないが車もバイクの中を埋もれるように同じ速度で走っている。
接触しないのが不思議なくらいのバイクの海の中を我々も走る。
後で大きな橋の上を通ったときに見えたが,この日,市内の川で「水の祭典」の舟こぎ競争があり,
その場所取りにプノンペンはもとより周辺の集落からカンボジア人が大挙押し寄せてきたところだったらしい。
とにかく,バイク,バイク,バイク,………,である。ほとんどは1台に一家の夫婦と子供の3,
4人,中には5人連なって乗っている。
日本では渋滞の車の狭い左をすり抜けて走ることはあっても,こんなバイクの海の中を走るのは初めてだ。
免許もいらない,重量オーバーのバイクが今にも接触せんばかりにひしめき,まるで縁日や祭りの人混みである。
先導バイクと青いジャケットの北海道のSさんは,どんどん先に行く,右横路から本線へ強引に乗り入れて
くる車やバイクを避けつつ,左右前後のバイクの群に接触しないよう,目の前に空白ができたときはサッと突っ込み,時には後ろから突っ込んでくる奴に前を譲り,
セカンドかサードギアを使い分け,クラッチとブレーキでうまくコントロールしつつ,前を行くM氏から離れないように追いていく。バイクの楽しみ方はいろいろ
あるが,こういう緊張する場面を走るのもまた一つの楽しみだ。この雰囲気は,実際にこの雑踏を走らないと実感が湧かないであろう。
10分ほど走った街中のガソリンスタンドに立ち寄り給油。
8時半,再びバイクの海に乗り入れた。コースが「水の祭典」イベント会場の近くを通るのか,バイクに
加えて車も多くなってきた。車はほぼ渋滞状況である。その左右を3,4人乗りのバイクが前へ前へすり抜ける。
先導車とSさんは次第に見えなくなった。赤いジャケットのM氏にぴったりついていたが,はずみで前に
出てしまった。そのまま走る。路肩に停車した車を避けて緩衝緑地に乗り上げて迂回,1台のバイクが緑地に乗り上げると後が続く。
延々と混雑が続き,先頭も後ろにいるはずのM氏も見えなくなった。右端に寄り停車してM氏を待つ,
しばらくして赤いジャケットが見えた。手を振って,再びスタート。
少し行くと,大きな橋が現れ下を見下ろすと,2,30人の漕ぎ手が乗った細くて長い舟が3隻ほど見えた。
写真に収めたいが,止まるわけにも行かず通過(この夜のホテルのテレビで競争の模様をやっていた。)橋を渡り終えた辺りで先導者とSさんが待っていた。
すごい無免許のバイク群の流れであるが,走るうちに,何となく暗黙のルールが感じられた。こちらが前に
出ようとすると一瞬譲ってくれる。前に出ないとなると,サッと前に出てくる。こうした微妙なルールがあって,お互い事故を避けているように感じられた。
何しろ1台転倒すると乗っている3,4人はもちろん周りの数台が巻き込まれることになる。また,バイクの
海の中では,車は遠慮してゆっくり走る。縁日の人混みの中で人と人がぶつかりそうでぶつからない,あの感覚である。
イベント会場を過ぎた辺りから,徐々にバイク混雑は解消されていった。逆に対向車線には,地方から
イベント会場に向かうらしい,町内会(?)全員を乗せてきたと言えそうな人を鈴なりに乗せた,中にはボンネットにも人を乗せたピックアップや乗用車,バイク
に牽引された車,2頭の水牛に引かせた牛車などが現れ始めた。
そして,やっとトップギアを時々使えるようになり,順調に通常の速度で走れるようになった。女性ガイド
を載せたサポートカーもいつの間にか後ろに付いてきている。
▽
転 倒
順調に1時間ぐらい走ったところで,道路の両端が人々でにぎやかな町に入った。人通りやバイク,
車が多くなり,スピードを落とす。
この町を抜けようとするところで,バックミラーが後ろに車を捉えたため,道路の舗装部分をはずれて
右側の路側に車線を代えて道を譲り,車の後ろを舗装路へ戻ろうとした,その瞬間,舗装部分の段差に乗り上げ,前輪がズルッと右に滑り,立て直すも何も
「やばい」と思ったときは既に遅く,バイクもろとも道路中央へ投げ出された。
転びつつスローモーションを見ているように対向車線に人を満載した車が迫ってくるのが見えた。
バイクとともに舗装路上を滑り,止まったのは対向車線のその車の直前だった。
生命は助かった。
グローブが破れて手先を負傷,両膝,左足首に打撲と擦り傷,これだけではない,ヘルメットの
右側頭部を地面に叩きつけたらしくシールドを留める部品が吹き飛び,シールドがブラブラになった。膝プロテクターを着けておれば,両膝は無事だった
ろうが,これも後の祭り。
Sさんに傷の応急手当をしてもらっているとき,ガイドが周りから聞いた話では,昨日,同じ場所で
車とバイクの衝突事故があり,バイクの2人が死んだとのこと。見ると,路面にチョークで描かれた人型が残っていた。この付近に地獄の迎えが来ていて,
引き込まれそうになったのかも。
この転倒事故で現地スタッフ,M氏,Sさんに心配を掛けてしまった。
とくに女性ガイドは後方のサポートカーから一部始終を見ていたらしく,しばらくは動悸が止まらない
と言っていた。私の一瞬の不注意でゴメン。
ヘルメットが壊れたこともあって,この日,残りはサポートカーに乗った。
▽ クモの唐揚げ
出発からロスタイムを含め3時間半,道路の片方に大きなドライブイン(?)と露店で賑わう,
言わばサービスエリアに入り,しばしトイレタイムと休憩。
周辺は,昼前で休憩の車が次々に入っては出て行き,食堂も満席で賑わっていた。
カンボジア人を満載した車が入ってくると,バナナや鶏の蒸し焼きを手にした物売りの女達が
駆け寄り,盛んに売り込んでいる。
その中に,珍しいものがあった。
サポートカーのドライバーが手招きするので行ってみると,雑踏の中で物売りの女性達の
うち2,3人,ボールに山盛りにした黒っぽいものを売っている。
近寄ってみると,何と!!真っ黒い蜘蛛の唐揚げだった。直径5センチはあろうかと
思える黒い蜘蛛の山である。
3人で早速カメラを取り出したまでは良かったが,「ここまで来たのだから,珍しいもの
を食べてみようか」という話になった。SさんもM氏も乗り気である。
見た目,尻込みしたくなるゲテモノだが,1匹ずつ食べてみることになった。
1匹を手に取ると,揚げた油でべとべとしている。カンボジア人が食うのに我々が食えぬ
ことはなかろうと,頭から足ごとガブリと噛んでみた。 ンンッ!!ガリガリと食う。苦みがあるのかなと思っていたが,これが意に反し美味い,
海老の唐揚げ風の味である。甘みさえ感じられた。
ガイドの説明では,これは「ツチグモ」でカンボジアではよく食べられており,この時期,
子を持っていて大きく1匹の値段が高いとのこと。道理でお腹が大きくふくらんでいた。ちなみに値段は1匹30円くらいだった。
蜘蛛の話から,カンボジアでは蜘蛛でも,ヘビでも,ネズミでも犬でも何でも食べるとのこと。
ただ,プノンペンやアンコール遺跡のシェムリアップではこうしたモノは見あたらず,バイクツーリングならではの現地接触の結果だと思う。
この日,コンポントムの夜店では「ヘビの串焼き」を売っていたし,夕食には「カエルの煮付け」が出た。
▽ 中継地 コンポントム
お昼過ぎ,今日の宿泊地コンポントムのホテルに着いた。プノンペンから約180km。
荷物を下ろし,そのまま昼食へ。
昼食後は,みんなでサポートカーのベンツのワゴン車に乗って,約20km離れたアンコール
より古いソムボープレイクックという遺跡を見に行った。
その往復の道路は,粘土質の凹凸の激しい悪道で,雨期はこれが泥んこになるという。
アンコール遺跡とは比較にならない小規模で見るからに古い,崩れそうな,当時の王の埋葬地
という塔の遺跡が数10メートルおきに散在している。この辺りは,プノンペンとアンコール遺跡群の中間地点で観光地に遠く,バイク・ツーリング
だから来れたと思ったが,この辺地(?)にも日本人の団体客が来ていた。
また,コンポントムのレストランでは,ベトナムから陸路で来たと言う台湾人の10台の
バイクグループとも遭遇した。
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