鹿児島県の「悪石島」という島をご存じだろうか。
九州の南端から沖縄まで,さらにその先は台湾・フィリピン・インドネシアまで,大陸に沿って大小の島々が 点々と連なっている。その中の「悪石島」は,鹿児島と奄美大島の間のトカラ列島に位置する。
トカラ列島は口之島,中之島,平島,諏訪之瀬島,悪石島,小宝島,宝島の七つの有人島と臥蛇島など無人島を 合わせて10いくつの島々からなり,十島村という村を形成している。
十島村は役場を鹿児島市に置き,南北162kmと日本一長い村である。各島に渡る唯一の交通機関は村営船 “フェリーとしま”,週2便1航海に3日を要し,鹿児島から7つの島に立ち寄り奄美大島の名瀬までを往復する 生活船である。各島とも緊急用のヘリポートはあるが空港はない。
鹿児島県人でも十島を知る人は少なく,それだけに知られざる島々,あるいは秘境の島々として「離島ファン」 にとっては一度は訪れたい所である。そして,一度訪れた人は,その自然の素晴らしさに再び訪ねてみたくなる。
悪石島の住人は40世帯足らずの80余人,島には温泉が沸き,海中温泉・砂蒸し温泉がある。
悪石という特異な名称で興味を引くが,ニューギニアの奥地に出没しそうな「仮面神ボゼ」で知られている。 あのナショナル ジオグラフィックの最近号(2005.7 列島探訪)にも,「黒潮がもたらした奇祭」としてボゼ神が取り 上げられている。
この夏(2005),ボゼ祭りの日,悪石島を訪ねた。
鹿児島港を夜の12時前に出港,明け方6時頃最初の島口之島に着く,補給物資の積み降ろしを慣れた手順で 終え,20分ほどで離岸,次の島へ向かう,こうして5番目の島「悪石島」には10時半頃に着く。
かつて,35年ほど前訪ねたときは,小さい(250t)村営船だったが接岸できる岸壁はなく,沖に留めて島との間は ハシケが何回か往復し,荷物(車も)の上げ下ろしが行われていた。当時は,航行中にホロ引きを流し,シイラが 掛かると船を止めて上げ,その刺身が船内食にでた。思い起こすと,のどかな航海だった。
今では,各島に立派な岸壁が出来,1,400tのフェリーが楽々着岸,車を持ち込むこともできる。
島には民宿が5軒ほどあり,島の住民より多い今回のツアー客90人は,2つの民宿と特別ダイヤで悪石島に 停泊することになった村営船内に分かれて宿泊,一晩中揺れているのはイヤなので民宿を希望した。
着いた日の午後,希望者による船釣りに参加,漁船で島の北側に案内され,釣り具を渡された。仕掛けは簡単, 糸の先に7,8センチほどのジグ(疑似餌)をつけ,底まで落として竿で上下に誘うだけ。
第1投目でアラの子?が掛かり,2投目に赤いハタ系が掛かった。釣り人は5人,それぞれ適度に釣れた。 大きいのは50センチほどの白ダイ,コロダイ,この日ややシケ気味で波が荒く,岸近くだったが,もう少し沖の 水深80mほどの所まで行けば同じ仕掛けで10キロ,20キロの大物が釣れるという。
悪石島2日目午前,同じ民宿にいた四国の人と軽トラを借りて島の東側の女神山周辺を巡った。四国から来たというこの人は 十島村の各島はおろか奄美群島の与路,加計呂麻島など全島を,またインドネシアの島々もほとんど回ったという島巡り のベテラン?で,植物にも詳しかった。悪石島は2回目で女神山に登りたいと言っておられた。
ほかにも諏訪瀬島に数回,悪石島2回目という人など,離島に興味のある人が多いことは意外だった。
2日目午後,いよいよ仮面神ボゼが出没する日,出てくるのは3時頃としか分からない,生憎2時頃から雨模様となった。 遠くに発生した台風の影響らしい。小雨の中,ボゼがくるという集落の公民館の周辺で待つ,3時半になっても 現れてこなかったが,雨は止んだ。漁船の船長でもある民宿の主人が「3時には止む」と予言のとおり。
公民館の狭い前庭で島民の男衆による盆踊りが始まった。10人ほどが輪になって手に割り箸のような棒をもち, ゆったりとした動作で数曲踊る。歌いながら踊るのだが,独特な節回しの唄の意味は聞いていても分からない。
公民館周辺には乳児からお年寄りまでの島民に加え,我々観光客,大きなカメラを抱えた取材陣が今か,今かとボゼ神 が現れるのを待つ,緊張が伝わるのか,「怖いよー」と泣き出す子供もいる。公民館につながる道は二通り,人々がカメラ 片手にあっちの道,こっちの道を交互に見渡している。
踊りが終わってしばらくすると,一方の道から「来た!来た! キャー」という声が聞こえ,ほぼ同時にもう一方の道 からも異様な姿のボゼ神が現れて公民館の庭に乱入,どこから現れたのか三体めのボゼ神も加わって,女子供を追い かけ回し,自分の体と持っているマラ棒に塗った赤い土を塗りつける。悲鳴を上げ逃げ回る女性や子供達,棒に塗られた赤土 が付くと悪魔払いになると言う。
ボゼ神は死霊臭が漂う盆から、日常に引き戻す役目をするということで,最後に盆踊りの輪の中に飛び込み盆行事の幕 を引く,それが悪石島で行われる最後のお盆行事だ。
それにしても,南洋の島ならともかく,今の日本でこのような独特なお祭りが残っていて,毎年廃ることなく 受け継がれていることに驚くが,ボゼ神については,いつから始まり,どのような起源を持つのか記録がなく,詳細については 何も分かっていないらしい。
ボゼ神が暴れ回ったのは30分足らずだったろうか。今年の悪石島の島民をあげてのお盆行事もこれで終わり。
この日を含めて悪石島に2泊,船中に往路1泊し,3日目の朝再びフェリーとしまに乗り込み,帰路に就いた。 遠くに台風が発生していたが,幸い影響はなく,追い風に乗って予定より早く帰り着いた。
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| 夜10時,十島村営船「フェリーとしま」に乗船 | 船内の様子 |
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| 悪石島の港,右上の坂の向こうに集落がある。 | 10余時間の船旅を終え,下船。 |
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| 早速,船釣りに挑戦。 | 5人で1時間半の,この日の釣果 |
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| 最初の夜,バーベキューパーティー,ふんだんに盛られた刺身が美味かった。 | 同 左 |
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| 帰ってきた先祖として各戸を回る盆踊り,どの家も焼酎でもてなす。 | 朝食は,コミュニティセンターで。 |
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| 島のあちこちにいろんな花が | 同 左 |
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| 島の南,荷積岬の天然プール,どんなに時化でも大丈夫。 | 海岸に面した露天風呂 |
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| 風習か,地蔵さんや墓地に赤く塗った竹がさしてある。 | ノンゼ岬から望む |
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| 島の東南にある女神山 | 樹木に覆われた女神山の麓 |
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| 島の神社の鳥居 | 鳥居の先には祠がある。 |
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| 公民館へ駆け上がってきたボゼ神 | 公民館の前庭でマラ棒で人々を追いかけ回すボゼ神 |
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| 今年現れたボゼの脱け殻? | 数年前の朽ち果てたボゼ |
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| 悪石島のクロアゲハ | 白黒ブチのトカラ羊 |
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| 悪石島の真っ黒い蜘蛛 | 白い蜘蛛,いずれもかなり大きめ。 |
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| さようなら,また来てね…。明日から島に平穏な日々が戻る。 | 船からも,さようならボゼの島 |
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| 今も噴煙を上げる諏訪之瀬島 | 桟橋に壁画が描かれた子宝島 |
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| 帰路10時間余の航海の後,やっと桜島が見えた。 | 鹿児島港に向かう途中,薩摩半島に沈む夕日が海に映えた。 |